スタートアップで経理として働く

Ryohei Tsuda
23 min readMar 14, 2019

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この記事は「(日本の)スタートアップで経理として働こうかな」と考えている人や経理を採用したいスタートアップのために書いた。質問があれば記事にコメントか Twitter の DM か何かで下さい。

私は今29歳で、複数のスタートアップで約7年働いている。現在は(もはやスタートアップと呼べない規模だが)株式会社メルカリで働いており、前職では株式会社ワンオブゼムというスマートフォン向けゲーム開発のスタートアップで主に経理を担当していた。副業を含めると5社(本業3社、副業2社)で働いた。

以前書いた仕事の記事はこちら

スタートアップ

この記事では、主に VC 等からエクイティファイナンスで調達した資金を使って新しい市場を開拓し、急激な成長を経て exit(M&A や IPO)を目指す会社を「スタートアップ」と呼ぶ。

起業のファイナンス

転職前に磯崎哲也氏の「起業のファイナンス」という本を読んでおくと、スタートアップを取り巻くお金の力関係が分かるのでおすすめ。何のファイナンス知識も無く出資を受けるのは家の鍵を開けて寝るのと同じくらい危ないと思う。

VC

Venture Capital と呼ばれる投資家たち。お金持ちから資金を集めファンドを組成し、スタートアップへの投資を行う。VC はファンドで集めた資金の一定割合を手数料として受け取る。ファンドはパススルー課税を採用するために法人ではなく民法上の組合のような形式を取ることが多い。住所はケイマン諸島の郵便箱にあったりなかったりする。 VC は組合構成員(LP: Limited Partners)の利益を代弁する存在。ファンドには必ず償還期限(LP がファンドに投資したお金を VC が増やして返す期限)があり、投資先にはそれまでに上場や買収などで exit することが期待されている。

VC からの投資時にはタイミングや金額、持分の割合にもよるが下記のような条項が盛り込まれた優先株式を発行することが一般的。

  • 一定期間内に exit が無い場合に、投資時の株価に一定倍率を掛けて会社が株式を買い戻す
  • 会社清算時に残余財産の分配を優先的に受けられる
  • VC が社外取締役として加入する

会社の登記簿を見ると種類株式の内容の箇所に優先株式の内容が詳しく書いてある。なお、登記簿は法務局に行けば誰でも見られる。

経営陣

私は、スタートアップの成功確率を外部から推し量るには経営陣を見るのが最も効率的だと考えている。最も良いのは一度 IPO か M&A を経営者かそれに近い立場で経験している人が経営陣に複数いるパターンだが、そんな会社は滅多にない…

面接でも会食でもどんな機会でもいいので、経営陣に直接会って自分が信頼できるかで判断するのが良い。雇用契約を結ぶ前に経営陣に直接会えないなら、そんな会社に入るのは辞めておくべきだ。

製品・サービス

スタートアップでは自社の製品・サービスが好きで社員がその話ばかりしていることが多い。

面接でも普段の仕事でも製品やサービスをどう改善するかの話ばかりしているので、サービスに興味がないと辛いかもしれない。意外と経理でも製品やサービスの改善に寄与できることがある。小さい会社であってもお金の流れ全体を把握している人は意外といないので、お金の流れを元に日々考えたことをアウトプットしていると、お金関連で困った人から様々な相談が来るようになる。

自分は●●に詳しい!と周囲にアピールして相談が来てから勉強するスタイルでお金になる技術を身につけた人を私はたくさん知っている。

経理の人数

経理専任で雇われる人は少ない。おそらく、社員が100人を超えるくらいまでは経理以外の仕事がたくさんあると思う。

今の会社では社員数400人くらいになるまで経理はずっと2人(+上司)だった。正直辛かった。

経理以外の仕事

スタートアップは基本的に人材不足なので、経理として採用されても経理以外の様々な仕事をするようになる。よくあるのは給与計算とか各種保険手続とか備品管理とか入社・退職の手続とか。

何でもできる人はいないので、その都度調べたり詳しい人に聞きながら仕事をすることになると思う。分からないことは素直に分からないと言いましょう。

上司

小さな会社ではマネージャー専門の人は少なく、上司も自分の仕事を持っていることが多い。選手兼任監督だ。

上司が日常的に自分の仕事を管理監督する時間はないので、日常的に自分のやっていることをアピールしていかないと評価や報酬に繋がらないことがある。黙ってても見てくれてると期待するのはやめよう。

月次決算

スタートアップに経理として採用されると、だいたい最初の仕事として経理を外注している税理士さんや会計士さんから月次決算を巻き取ることになる。

経理以外の仕事もやりながら月次決算を一定の期限(翌月の取締役会)までに終わらせるのは結構大変なので、できるだけ早い段階で半自動化しておきたい。

例えば立替経費や請求書などを回す稟議決裁のワークフローから承認完了した申請を抽出して Excel で会計ソフトに取り込む csv や総合振込用に全銀フォーマット対応の csv を自動生成したりとか(20人超えても稟議決裁の証跡を残す仕組みが無かったらすぐに入れた方が良い。どういう exit を目指すとしても近い内に必要になるので)、請求書の原本を回収して会計の証憑とセットで保管しておく仕組みとか。

電子帳簿保存への対応は必要なドキュメントやツールの整備とか導入時の調査対応とかが割と面倒なので、経理が少なくとも5人くらいに増えてからやった方が良い。

こういうノウハウがもし無ければ、自分で工夫するより2~3年ちゃんとした会社で経理をやった人から最初の一歩を教えてもらうのが早い。知り合いの伝手を辿って副業で2~3ヶ月限定で手伝ってもらうのも良い選択かもしれない。

会社法決算

全ての株式会社は会社法に基づき年1回以上の決算を行い、事業報告や計算書類と呼ばれる書類を作成しそれを添付して定時株主総会を招集し決算を承認する。

会社法の決算自体は非常に簡単(何しろ全ての株式会社が守らなければならないルールなので原則は単純)だが、公開会社もしくは会計監査人設置会社の場合は注記で書かなければならないことが幾つかある(PL/BS注記とか税効果会計とか金融商品注記とか)。詳しくは会社計算規則の98条を参照。

株主総会には決算以外にも様々な決議事項がある。瑕疵があるといろいろ面倒なので、決議の前に必ず何度も会社法に詳しい弁護士の方にチェックしてもらいましょう。

決算公告

定時株主総会で決算が承認された後に決算公告をしなければならない。決算公告は実は会社法上は期限が定められていないのだが、官報販売所の人に電話で聞いたところ総会から3ヶ月以内に行うことが多いそうだ。

ちなみに決算公告しない株式会社には罰則があるが、適用されているのを見たことはない。罰則ではないが、決算公告をしてないと組織再編の登記が受理されない等の不利益があるので注意。

連結決算

グループ会社がある場合、連結決算が必要になる。仕組みは単純で、企業集団を単一の組織体とみなし、 1. PL と BS を合算し 2. 投資と資本を相殺し 3. 関係会社間の取引や債権債務を相殺する、の3つを行うだけだが、海外にグループ会社があると連結に必要な情報(特に税効果会計とか…)を集めてくるのが大変なことが多い。

もし監査法人に知り合いがいたり既に監査を受けている場合は、連結精算表や連結パッケージのフォーマットをもらってそれを実際に埋めながらやり方や注意点を覚えていくのが良い。現職では上司が元々ある上場企業の連結決算マネージャーをやっており、最初からいい感じのフォーマットを用意してくれていたのでとても勉強になった。

英語と文化

スタートアップに限らないが、海外にグループ会社や顧客がいる場合、英語が必要になることがある。経理であれば海外への送金時のやり取りや連結決算時のコミュニケーションなど。

大きい会社だと英語ができる人が代わりにやってくれるが、小さい会社だとそうも言ってられない。しかし、英語の経験がなくても心配する必要はない。多くの日本人は中学高校と6年間英語を勉強しているので、使う機会さえあれば意外と何とかなることが多い。特に会計や税務の分野は使う単語も限られていて、事前に準備しておけば英語のみのMTGでも目的を果たすことができる。

コミュニケーションの注意点として、英語だけでなく何故その人がそのように考えるのかという慣習や文化的背景とか、聞いてはいけない言ってはいけないことも理解する必要がある。普段しゃべってる日本語をそのまま英訳するだけだと大抵は空気が読めないヤバい奴になる。日本人同士だと気をつけていることでも英語だと気が回らないことが多い(自分もそうかも…)。

特に聞いてはいけないことの例として、年齢、家族の職業、何処に住んでるか、出身地、思想や社会運動に関すること等がある。どうしても聞きたいなら仲良くなった上で絶対に Closed な場で聞きましょう。

顧問税理士

日本の税制は各種の法律に加えて行政の判断(税務当局の通達)が影響することが多く、非常に複雑になっている。

できれば、同じような業界のより大きな会社で過去に顧問をやっていた税理士に顧問をお願いして税務申告や税務調査の立会いをやってもらうのが良い。

一度税務調査を受けると、調査官を通じて統括官や審査部など税務に詳しい方々に考え方や意見を聞けるので、非常に勉強になる。税務調査の経験が多いほど知見が溜まるので、そういう税理士に顧問をお願いするのが良い。

税務調査

会社が大きく成長して利益が出るようになると、法人税や消費税の税務調査が行われる。税務調査といっても普段から法人税法や消費税法に則って経理処理をしていれば特別に身構える必要はなく、資料を提出して見てもらい質問に答え、見解の相違があれば議論する。

税務調査職員も暇ではないので、大きな企業や誤りのありそうな企業(一度も税務調査を受けておらず課税所得が生じている企業)を優先的に見て回っているので、繰越欠損金がある間は来ないと思って良い。

ちなみに国税庁の発表資料によれば、税務調査の結果として約7割の会社が誤った税務申告をしているそうだ。以前書いた記事 → 税務調査で誤りが見つかる割合

開示資料作成

上場準備の一環で、上場前から決算短信や四半期報告書、有価証券報告書のような開示資料を作らなければならない。

大きな企業だと開示する項目(例えば金融商品注記とか固定資産など)ごとに担当者がいて分担して作ることになるが、スタートアップは上場準備中でも人が少ないので、必然的に開示論点全般をカバーすることが求められる。

開示未経験であっても会計監査人や印刷会社(PRONEXUSや宝印刷)に聞けば過去の事例について詳しく教えてもらえるので、まずは自分の手を動かしてやってみることが大事。やっていくと次第に何となく勘所が分かってくる。

武力

私は変化の激しい環境で自分の手を動かして問題を解決していく力を勝手に「武力」と呼んでいる。経理のいわゆる武力に当たるものは、

会社が小さい頃(~100人くらい)はとにかく雑にでも必要な仕事を終わらせるために

  • 基礎的な税務や会計の知識
  • 事業やサービスに関するドメイン知識
  • 自ら優先度を決めて雑に早く仕事を進める判断力

会社が大きくなってくると、全体も詳細も見えづらくなるので

  • 会計や税務の専門的な知識と経験
  • 周辺領域(法律とかファイナンスとか)の横断的な知識
  • 会社のどこでどういうお金の流れがあるかの知識

が重要だと感じた。

また、人数が増えると様々な知識や経験を持った人が集まってくるので、何かしら得意分野や専門知識・経験がないとチーム内で便利屋的な扱いになってしまうことがある。便利屋も重要な仕事ではあるが、自然と環境依存のスキルが身についてしまうので、意識して周囲の人が持っていないスキルを磨いていかないと周囲や市場から取り残されてその内に仕事がなくなってしまうかもしれない。これを読んでうんうんと思った便利屋さんは Excel を捨てて Google Apps Script か Python で自分の仕事を自動化してみよう。

存在感

スタートアップでは経理の定めたルールを守ってくれないことが多い。これは悪意がある訳ではなく、皆それぞれ自分が優先すべきと思った仕事をやっているだけだ。

経理業務を効率化するにはどうしても周囲の協力が欠かせない。日頃から経理の仕事について社内にアウトプットして重要性を主張し存在感を高めていくと、仕事がやりやすくなる。

資金管理

会社は赤字になっても倒産しないが、現金が無くなると倒産する。特にスタートアップでは資金繰りの管理は経理の仕事の中で最優先と言って間違いない。

私が新卒の会社を1年で辞めてスタートアップに転職するとき、先輩に「転職先の資金繰りが1年持たないようだったら危ない会社だからすぐに辞めた方がいいよ」と言われたが、その定義に従うと創業間もないスタートアップはだいたいが危険な会社である。

日次で資金管理できるシートか何かを作ると資金繰りに役立つだけでなく会社全体のお金の流れが分かるので、様々な意思決定に重宝する知識や情報が身につく。

予算

経理としてスタートアップで働いていると、借入や増資や管理会計などで予算や経営計画と呼ばれる Excel を作る機会が訪れる。結論から言うと、スタートアップでは予算を作ってもどうせ予算通りにはならないので、あまり時間をかける意味は無い。

会社全体の財務モデルの検証と資金管理ができればそれで十分だと思う。もしスタートアップの予算を正確に作れるなら、そこで働くよりも投資家になった方が成功できる。

資金調達

スタートアップは赤字上等でお金を使い続けて市場を開拓していくので、定期的に資金を調達しなければ倒産してしまう。銀行は継続的に赤字の会社には貸付してくれないので、エクイティで調達することが多いはず。

資金調達時の経理の仕事としては、調達した資金の使途を示す計画や Due Diligence 対応のための資料を作ったり、場合によっては投資家に説明することがある。上場準備も一種の資金調達なので同様。

上場準備

一口に「上場準備」と言っても、やるべきことは多岐にわたる。会社が証券取引所に上場しようとするとき、主に以下の利害関係者がいる。

  • 上場準備会社: 自分たちの会社。株式を証券取引所に上場する時期を決定したり、監査人や主幹事のアドバイスに基づき必要な社内体制を構築したりする。
  • 会計監査人: 上場申請期の前期および前々期の2年間について、金融商品取引法に準じた監査を行う公認会計士の集団(監査法人)。2年間という期間は監査意見を表明する(財務諸表等に重要な虚偽表示がないという合理的な保証ができるかを判断する)対象であって、実際には会社の業務や業績を把握・改善点を指摘するために上場申請期の前々期以前から監査を始めるのが一般的。
  • 引受証券会社: 上場準備会社の株式を買い取り、自社の顧客に販売する証券会社。このときの引受手数料(公開価格より株式を安く買うことができる、その差額)がIPO時の彼らの主な収益源。引受を仕切る証券会社は主幹事 (mandate)と呼ばれる。主幹事の公開引受部門が資本政策や社内体制整備のアドバイス、上場に当たっての手続きのサポートを行い、審査部門が上場準備会社の審査や証券取引所への推薦を行う。主幹事以外にも上場に参加する金融機関はたくさんあり、それらをまとめて「シ団」と呼ぶ。
  • 証券取引所: 主幹事からの推薦書を受け取り上場準備会社の審査を行う。証券会社とは負っているリスクの種類が違う(証券会社は自社の顧客を儲けさせたい、証券取引所は変な会社を上場させたくない)ので、審査の際の着眼点も多少異なる。

経理として上場準備に参加するときは、会計処理や開示事項について検討したり監査人と協議すること、決算短信や有価証券届出書などの開示資料を作成すること、主幹事の審査部門やシ団、証券取引所からの会計・税務関連の質問に回答すること等が主な業務内容になる。

上場準備を何回もやる人は少ないので大抵が初体験だが、決算をきちんと締めて開示資料を作れれば後は証券会社の引受部門の担当者がいろいろ教えてくれるので、経営陣やVCのコネを使ってなるべく融通の利く優秀なチームをつけてもらうと不必要な苦労をしなくて済む。

いわゆるCFO — Chief Financial Officerと呼ばれるような資金調達や上場準備を仕切る役割には事業会社の経理よりも投資銀行や証券会社の出身者を雇うことが多い。もしあなたが将来的に経理だけでなく財務や資金調達周りの仕事もやっていきたいもしくはCFOになりたい場合は、日頃からアピールし続けるとそのような機会が訪れるかもしれない。

監査

会社が上場するとき、上場申請期の前期と前々期について金融商品取引法に準じた監査が必要となる。会社側の経理の具体的な業務としては、会社の事業や社内体制などについて説明した上で監査人が要求した資料を提供し、質問に回答していく。上場準備中に新しい事業やサービスを始める場合、会計処理の検討から入ってもらったりすると話が早い。

財務諸表やIT内部統制、J-SOXの監査はやろうと思えば無限に仕事があるので、時間と優先度を意識して監査の責任(財務諸表等に重要な虚偽表示がないことが合理的に保証されている)を果たすチームがついていると心強い。

なお、これは主幹事の選定にも言えることだが、監査人のチームが優秀だと上場準備が非常に楽なので、まだ契約していないのであれば VC や周りの会社に聞いて良いチームを紹介してもらうのが良い。

事業・製品・サービスの会計

自社の事業でどれだけの債権債務や収益費用が発生したかを集計して会計処理をするシステムは、最終的には自社の責任で構築しなければならない。 Web アプリケーションを提供している会社の場合、開発時には会計の要件が考慮されておらず、顧客に価値を提供するために最適化されたデータ構造が会計上必要な数値を出すには辛い、ということが往々にしてある。

経理として働く上で投資家や経営陣に正しい財務情報を提供する責任がある以上、このようなシステムと永久に無関係でいることはできない。システムの問題はだいたいデータ構造とアルゴリズムの問題なので、まずは SQL を読み書きできるようになっておくといい気がする。ソフトウェアエンジニアの方には怒られるかもしれないが、データベースは Excel とちょっと似てるので経理には親和性高いと勝手に思っている。

会計ソフトウェア

スタートアップにはいわゆる SAP とか NetSuite みたいな ERP を買うお金は無い。会計に使うソフトウェアは、 MF クラウド / freee / 勘定奉行 / 弥生会計 / PCA とかの安くてそこそこ使えるものを導入することになる。私のお勧めは MF だが、現職では当初勘定奉行を使っててそんなに困ってなかった。

ほとんどのスタートアップは経理を税理士さんに丸投げしている。経理の1人目で入社すると、まずは税理士さんから月次決算業務を巻き取るところから始まる。その時、税理士さんが使ってる会計ソフトをそのまま使うと運用の引継がしやすい。会計ソフトは正直なんでもいいので、とりあえず税理士さんが使ってたやつを入れて運用をソフトに合わせるのが楽。

良いスタートアップを探す

スタートアップを外から見て成功するかどうかが分かるなら投資家になった方が成功できる。つまり成功するか不明という前提で、それでもその会社の成長に貢献したいと思えるかで決めるのが良いと思う。

最も良い転職方法が友人や同僚の紹介であることは間違いない。スタートアップでは日常的に膨大な数の意思決定をしていくので、最初から個人的な信頼関係が構築されていることは大きなアドバンテージになるからだ。

面接

スタートアップの従業員はどんな職種・立場であっても自社の製品やサービスをかなり使っていることを求められる。面接までに最低でも1回は使って自分なりの改善点や考えたことをプレゼンすると話が弾む。

経理であっても例外ではない。社員200人くらいまでは経営陣が全社員の最終面接をすることが多いと思うので、そのつもりで準備した方が良い。

辞めどき

時間は貴重な資源。もしスタートアップで働きはじめて「思ったのと違う」とか「成功してもリターンが少ない」とか「この会社の資本政策完全に失敗してるな」とか気づいたら、すぐに辞めたほうが時間を有効活用できる。

自分の経験則として、経理が続いて辞める会社はだいたいヤバい会社という確信がある。

年収

スタートアップは資金に余裕が無い会社が多いので、基本的に給与は低い。また、製品やサービスの売上が伸びない場合、給与はなかなか上がらない。

逆に製品やサービスの売上が伸び続け、且つその人が再調達しづらい(辞めたら中々採用できなさそうな)技術や経験をその会社で積んでいる場合は、伝統的な大企業よりも早く年収が上がると思う。なお、具体的な収入の話はデリケートなので在職中は書かないことにした。

私個人は学位も経験も少なく市場で再調達しやすい人材だったので雇用時の給与は低かったが、希少な人材であれば当然最初から高い給与で雇われることになる。例えば経理だったらそのスタートアップのベンチマーク先の大企業で開示・税務全般のリーダーをやってました、とか。

ストックオプション

スタートアップは給与が低い一方で、「ストックオプション」と呼ばれる株式報酬をインセンティブとして役員や従業員に渡すことが多い。ストックオプションは予め決められた価格(行使価額)で将来的に会社の株式を購入できる権利で、会社ができたばかりだと文字通り紙切れ同然だが、成功すると大きなキャピタルゲインを得ることができる。場合によっては数千万円〜数億円になることもある。あくまで権利なので、行使しなくても良い。

ストックオプションの税制適格要件を満たすと、権利行使後の株式売却時に株式の譲渡所得として売価と行使価額の差に20%の所得税が課される。要件を満たさない場合は、権利行使時に行使価額と行使時の時価が給与所得として総合課税された上で(最高税率だと45%)、売却時の株価と行使時の時価の差額に20%が課税される。税制適格要件を満たすには割当から行使まで2年以上、且つ行使価額が割当時の時価以上、割当対象がその会社の役員または従業員でなければならない(2019年3月現在)。他にもいくつか条件がある。あなたが日本の非居住者で日本の会社からストックオプションを割当される場合、税制適格要件に対応するのが異常に面倒なので必ず専門家に相談すること。

また、日本で上場しようとする場合、各取引所の内規(有価証券上場規程)に基づく「確約書」なる書面を会社と新株予約権者の間で交わし、上場までストックオプションを行使しないことを約束しなければならない。確約書は証券取引所に提出する。上場は取締役会の決議が必要で、いつ上場するかは業績や会社の判断や社外取締役であるVC株主の意向に左右されるので、いつまで経っても行使できないこともある。従業員側からすると正直に言って意味が分からないのだが、会社側から見ると従業員の退職防止に繋がって都合がいい。

非上場会社の1株あたりの価値は登記簿を見ればだいたい分かるので、興味があったら自分が働いている会社の履歴事項全部証明書を取得して読むのがお勧め。法務局に行けば誰でも取得できる。直近の資金調達時の資本金組入額に2を掛けた数字を調達時に発行した株式の数で割ると、1株あたりの株価が分かる(これは正確に言うと普通株ではなく優先株の時価なのだが、その辺の理由は冒頭に挙げた「起業のファイナンス」を読んでほしい)。ついでに増資時の Valuation も何となく分かる。なお、2をかける理由は登録免許税の節約のために会社法上の下限である調達額の半分を資本金に組み入れることが一般的だから。

ちなみに履歴事項全部証明書には今まで発行したストックオプションの行使価額や条件などの内容もだいたい書いてある。

ストックオプションをどれくらい貰えるかは会社の資本政策や入社したタイミング、立場によって変わる。上場した会社の目論見書を読むと、発行済株式に対してストックオプションをどれくらい発行しているか(多くても20%以下のはず)、時価総額がどれくらいか、何人がどのくらい貰ってるかという情報が記載されているので、興味があったら読んでみるといい。割当先以外の情報は登記簿にも書かれているので上場前でも何となく分かる。

交渉

もし最初から経理マネージャー的なポジションで入るなら、納得して仕事をするためにも給与やストックオプションについて会社と交渉すべきだ。交渉の際には自分個人が負担しているリスクに基づいた期待リターンではなく、他社からのオファーや他社の目論見書など客観的な情報を使うのが良い。誰もあなたが負担している個人的なリスクに関心は無い。

なお、スタートアップが出すマネージャー「候補」の募集要項は信用してはいけない。そこには「(他に適切な人が居なくて入社後に成果を出していたら)マネージャー(にするかもしれない)候補(の内の一人)」くらいの意味しかない。

評価

会社は四半期か半年ごとに従業員を評価し、給与が増減したり株式報酬の付与を行ったりする。給与や賞与はその人を市場で再調達するときの価格、ストックオプションはその人が負った責任や担当業務のリスクの大きさに比例すると感じる。

評価される立場からすると、評価の場や評価制度そのものというよりは評価者への日常的なインプット(自分が何やりたいとか何やってるとか)が重要だと感じることが多い。なぜなら、上司も自分の仕事で忙しいので部下の取り組みを体系立てて把握する機会に乏しく、デフォルトでは公平公正な評価は難しいから。

なお私はずっとヒラ社員なので他人を評価する立場になったことは無い。

リスク

スタートアップは資金繰りに行き詰まって従業員をリストラすることがあるが、リストラされたり倒産しても雇用保険や未払賃金立替制度などのセーフティネットがあるので意外と何とかなったりする。

自分がどの程度のリスクを許容できるか、どの程度のリターンを求めるかは転職時によく考えるべきだ。例えばストックオプションで数千万円のキャピタルゲインが(10%くらいの確率であっても)見込める場合、年収が数十万円下がったり雇用が不安定になることは大したリスクではない。

扶養家族がいる場合はリスクの許容度が下がる。

キャリアパス

会社が大きくなってくると、従業員のキャリアパスとしてチームを率いる「マネージャー」か専門性を磨き続ける「スペシャリスト」のどちらかが提示されることが多いと思う。

会計や税務の仕事は外部から専門的な人材を調達しやすいので、マネージャー的なキャリアを選びたがる人が多い。

新しい力

マネージャーにもスペシャリストにも興味が無い場合は、他の新しい力をつけるための別の道を自分で探すことになる。社内で新しい仕事を探すか辞めて別の会社に行くか、最適な選択肢は時と場合によって変わる。

最後に

質問や誤った情報があればコメントか Twitter の DM か何かで下さい。

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