Amazonと法人税

Ryohei Tsuda
6 min readOct 6, 2018

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Amazonは時価総額1兆ドルを超える世界的な大企業だが、規模の割には控えめな法人税を払っている。

これは悪質な脱税をしているというより、そもそもの課税所得が少ないためだ。Amazonの連結PLを見ると、2015年12月期~2017年12月期(Form 10-K)の3年間で税引前利益$ 9,266 Mに対し法人税額は$ 3,144 Mで実質的な税負担率は約34%となり、米国の法人税率と大して変わらない。Amazonは米国より法人税率が低い国にも展開しているので、これはAmazonの税負担率に対する関心の低さを意味していると言えるのではないか。

一方、2015~2017の3年間のNet Sales(売上)は$ 420,859 Mで、法人税の課税根拠となる税引前利益は売上の約2.2%に過ぎない。つまり、Amazonは巨大な売上に対して僅かな利益しか出していない。

売上規模

Amazonの売上規模は非常に巨大で、実は日本の消費税収より大きい。分かりやすいように、両者の2017年までの10年間をグラフで比較してみた。

日本では2014年に消費税率が5%→8%に上昇

Amazonは12月決算、消費税は日本の会計年度の数字、為替換算レートは三菱UFJの年平均TTMを使用した。

営業CFと税引後利益の比較

売上が伸び続ける一方で、ここ10年のAmazonの営業キャッシュフロー(営業CF: 会社の本業で生まれた現金収入から本業で使った現金支出を引いたもの)と税引後利益の推移を見ると、利益の伸びに対して営業キャッシュフローの増減額の伸びが非常に大きいことが分かる。

Amazonの営業CF増減が税引後利益に対して大きい理由は様々だが、キャッシュフロー計算書によれば主要な要因は設備・ソフトウェア・のれん等の減価償却とStock-based compensation(株式報酬費用)のようだ。

減価償却は過去に取得した固定資産の取得原価を利用開始後の一定期間にわたって費用として配分する手続で、現金支出を伴わないので利益と営業CFの差分となって表れる。

株式報酬費用とは、2017年12月期のForm 10-K(有価証券報告書みたいなやつ)の注記によると、

Compensation cost for all stock awards expected to vest is measured at fair value on the date of grant and recognized over the service period. The fair value of restricted stock units is determined based on the number of shares granted and the quoted price of our common stock, and the fair value of stock options is estimated on the date of grant using the Black-Scholes model. Such value is recognized as expense over the service period, net of estimated forfeitures, using the accelerated method. The estimated number of stock awards that will ultimately vest requires judgment, and to the extent actual results or updated estimates differ from our current estimates, such amounts will be recorded as a cumulative adjustment in the period estimates are revised. We consider many factors when estimating expected forfeitures, including employee level, economic conditions, time remaining to vest, and historical forfeiture experience.

要約すると、(従業員や役員に)Amazonの株式を得る権利を渡していて、それが行使(つまり株式と交換)できるようになるまでの期間にわたって権利の公正価値を費用として配分していく、という内容っぽい。これも現金支出を伴わないので、営業CFと利益との差となる。

Amazonのように課税所得を抑え将来キャッシュフローを最大化するための積極的な投資をする会社は他にもある。投資家から見ても、なるべく利益を出さず(≒法人税を払わず)に現金を投資に回して将来キャッシュフローを最大化する企業は魅力的に映るだろう。実際に、Amazonの株価はここ5年で5倍近くに上昇している。

Amazonの株価推移

法人税制について

法人税は利益に税率をかけて課税所得を計算するから、Amazonのように僅かな利益しか出さない会社が競争に勝ち抜いていくと、経済成長に比して税収が伸びなくなる(別の問題として、法人税については国家間で自国の競争力を確保するための税率押し下げ圧力もある)。

これらは現行法人税の制度的限界で、将来的には税収はより経済活動に対して中立的で課税ベースの広い消費税・付加価値税に移行するだろう。

法人税がいきなり廃止されることはあり得ないが、課税体系が変わることは考えられる。例えば米国では、トランプ大統領就任前の2016年6月に発表された下院共和党指導部の税制改革案に法人税の課税を仕向地主義キャッシュフロー課税(Destination-Based Cash-Flow Tax)にするという案が盛り込まれた(みずほ総研: 米国税制改革の2つの争点 2017年5月9日)。

感想

税制は所得の再分配と公共投資の財源獲得という目的を達成するための手段だが、その実体は様々な登場人物の思惑が交差し、当初の思惑とは違った作用を生み出すこともある。

私はずっと経理の仕事をしてきたが、複雑な社会を読み解いて最適な解決策を見つけ出すためには経理以外の知識や情報がたくさん必要だと実感した。

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