数字で見る日本の元号
西暦2019年5月1日午前0時をもって、「平成」から新しい元号に変わるらしい(NHKニュース)。
新しい元号は国民生活に混乱を与えないよう、施行1ヶ月前の4月1日に公表されるとのこと。私は日常的に元号を使っていないのでほぼ影響を受けないが、元号が関係するシステムを開発している人は大変な1ヶ月になるだろう。
現行の法制度下では、改元は「元号法」という法律とその具体的手続を定めた政令に則って進められる。元号法には「皇位の継承があった場合に限り改めること」ことが定められている。明治より前は一人の天皇が複数回元号を変更することがよくあったらしい。例えば明治天皇の父である孝明天皇は6度もの元号変更を行なっている。
実際の改元は有識者が選んだ候補を元に、閣議決定で確定される。候補は中国の古典から採用する慣例がある。例えば平安時代、源氏と平氏が争った治承・寿永の乱が終わった時の元号は「寿永」だが、これは「詩経」の「周頌・載見」から引用しているらしい。ソースは Wikipedia 。
率見昭考、以考以享、以介眉寿。永言保之、思皇多祐。(率いて昭考に見え、以って考し以って享し、以って眉寿を介する。永く言(ここ)にこれを保ち、思(ここ)に皇いに多祜あらん。)
興味が湧いてきたので、元号のあれこれを数字で見てみることにした。
まずは Wikipedia を元に、元号の (1) 名前、 (2) 開始日、 (3) 終了日、 (4) 前元号からの改元理由
を整理する。
注意点
対象とするのは大化の改新が行われた西暦645年以降2019年までの1374年間。南北朝時代の元号は持明院統および北朝を採用する。また、Wikipediaに倣い1593年1月10日より前はユリウス暦、以降はグレゴリオ暦を採用。
改元理由が複数となる際は、主要な理由を 新天皇即位 > 災異改元 > 革命・厄除け > 贈り物・吉兆 > その他 の順で判断する。
西暦の抽出方法
元号一覧(日本) の Wikipedia に記載された表を Google スプレッドシートにコピペし、 REGEXEXTRACT
関数を使って正規表現で西暦日付を抽出して SUBSTITUTE
関数で () を消す。正規表現ってやばくないですか?これ発明した人天才でしょ…
デフォルトだとセルが結合されてしまうので解除してから加工すること。結果はここに置いておきました。READMEは後で書く。
https://github.com/hqac/japan_era_name/blob/master/era_name.tsv
元号存続期間
サマリー
- 平均値: 2036日 / 5.6年
- 中央値: 1253日 / 3.4年
- 最大値: 22659日(昭和: 1926–12–25 ~ 1989–01–07)
- 最小値: 48日(朱鳥: 0686–08–14 ~ 0686–10–01)
ヒストグラムにしてみると、ほとんどの元号は3000日未満のエリアに収まっていることが見て取れる。
存続期間 TOP 3
1位: 昭和(22660日): 最も長かったのはやはり昭和。偏差値を計算すると132.8とぶっち切りの一位。2位明治に7000日近い大差をつけた。第一次・第二次世界大戦を経てGHQによる占領時代、高度経済成長、東西冷戦に加えて、経済発展により公害など数々の社会問題が起きた。日本の歴史を語る上で絶対に外せない時代。
2位: 明治(15986日): 近代日本の礎が築かれた明治が2位にランクイン。従来コロコロ変わっていた元号は、このとき一世一元の詔により天皇一代につき一つとなった。江戸時代の封建的支配体制は解体され、天皇を頂点とする中央集権国家が構築された。
3位: 応永(12366日) : 室町時代から応永がランクイン。三代将軍足利義満により南北朝が統一され、明徳の乱・応永の乱で山名氏や大内氏など有力守護大名の力が削がれた結果として、将軍家の権力基盤が固まり安定した時代となった。
改元理由 TOP3
1位: 災異改元(104回)
災害、戦乱、疫病、天変地異など何か大事件が起きたときは元号を変えることで新しい世を作ろうという発想。例えば江戸時代、1657年に起きた「明暦の大火」により、明暦から万治に改元が行われた。大化の改新以降で天皇が90代であることを考えると、災害や疫病などによる改元がいかに多かったかが分かる。
2位: 新天皇即位(74回)
基本的には新しい天皇が即位した際に元号が変わるが、例えば仲恭天皇のように在位期間が短かったため改元が行われないケースもある。そのため、大化の改新以降の天皇は90代あるものの、新天皇即位により元号が変わったのは74回だった。
3位: 革命・厄除け(28回)
中国の「諱書」という古典では、特定の干支の年は天命が改まり王朝が交代する革命の年とされる。例えば辛酉革命など。これを意識したのか、辛酉や甲子の年には改元が行われている。干支の一巡には60年(十干十二支)かかるので、この理由による改元は少ない。
使われている漢字ランキング
今回対象の元号数は238。基本は漢字2文字だが、8世紀中頃は4文字の元号があり(例: 天平宝宇)、元号に使われた文字数は合計で486文字となった。ユニーク漢字数は69。最もよく使われた漢字は以下の通り。
1位: 永(29回): 永暦、寿永、永禄など。元号は平和・安寧を願って名付けられることが多いため、「続く」を意味するこの字がトップになったと考えられる。
2位: 天(26回): 天喜、天正、天保など。「世界を治める」という意味の文言でこの字がよく使われている。
3位: 元(24回): 元徳、元和、元禄など。この字は物事の根源、始まりを意味することから、元号によく使われている。
出典ランキング
元号の由来は漢文の古典が非常に多い。トップは26回登場の「尚書(書経)」。中国の伝説的な王朝「夏」「殷」「周」の天子や諸侯の政治上の心構えや訓戒などが書かれている。
2位は18回登場の「文選」。奈良時代に日本に伝わり、日本書紀や万葉集など日本の古典にも大きな影響を与えたと言われている。文選出典の熟語は英雄、炎上、解散、凶器、経営、故郷、国家、夫婦、天子、元気、学校、娯楽…など様々。
なお、明治・大正は「易経」から、昭和・平成は「書経」から取られている。
次の元号を勝手に予想
前述の通り、今回の元号変更は閣議決定で行われる。となれば、内閣のトップである総理大臣の意向が反映される可能性がある。安倍首相の好みそうな中国の古典から、時勢を鑑みて選ぶことになるかもしれない。
安倍首相の Twitter によると、年末年始に読んだ本は下記の3冊。
共通点としては、全てが歴史に関する本、そして皆やや戦闘的な人物であることが挙げられる。信長といえば、包囲網を打開するために朝廷に改元を迫り、改元によって朝廷が自分の味方であることを示そうとしたエピソードがある(元亀→天正)。
元号名「天正」の由来は「文選」および「老子」から。老子は中国の春秋戦国時代に書かれたと言われており、処世術、統治理論、世の中や人間の法則を著したものとして今なお読み継がれている古典だ。ということで、信長にあやかって「老子」から元号を考えたい。
老子にはこのような一節がある。
執古之道、以御今之有、能知古始、是謂道紀
古の道を執りて、以て今の有を御す。能く古始を知る、是れを道紀と謂う。
昔からの道をしっかり持って現今の諸々の事柄を始める。そうすると、万物の根底を流れる道の法則が分かりますよ、という意味だと思う。
「道紀」のイニシャル「D」は明治(M)、大正(T)、昭和(S)、平成(H)とも被らない。このような地名は日本になく、日本や中国の過去の元号、天皇、皇帝の名前とも被らない。これで行きましょう!
ちなみに「道」も「紀」も過去に元号に使われたことはない。
おまけ: 好きな元号
私が好きな元号は 貞治(1362.10.11 ~ 1368.03.07)。世界のホームラン王ですね。北朝一本足打法。